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寄稿 河北新報コラム(微風旋風)Vol.6「ズット秋田ニ居リマス。」

 「何を託されてきたのか」NPO法人「nasu地人協会」設立前夜の昨冬、私たちは任意団体として活動した過去十年を総括していた。秋田県の急激な人口減少と経済縮小は地域が行政や企業に依る寄与の範囲を狭め、各地の特性を育んだ伝統・文化・行事・建造物等を消滅させつつある。私たちの預かる案件も同様の背景に起因しており、そうした地域資源の再生・創造が事業の主題であったことを認識した。

 過疎地域にあっての取り組みは内部意識と外部参画の融合なくして本当には何も生まない。「地域‐地域」の連携と「地方‐都市」の循環が成果の絶対条件であることは会員各人が経験から培った信念だ。現在、30代から60代までの十数名がその幾倍の関係者が与する複合的かつ流動的な事業を生活の一部として営んでいる。

 彼らの献身は人間とは何ものかを自問させずにおかない。それは理念の言語化を待つまでもなく行われた自然の振る舞いだった。そうした有り体な生の態度は同質の精神と直ちに共鳴するものらしい。彼らの差し出すものの大きさが受け取る人の中に彼らそのものの大きさとして住まうのだろう。個々人の絆ほど非営利活動の充実に資する要素はない。彼我の境なく現れるいわく言い難い衝動が真の豊かさに関わる予感を彼らは抱いている。

 冒頭の組織変革にあたり、私は初めて会員と『農民芸術概論綱要』を共有した。かつて私を揺さぶり、行動に駆り立てた詩文だ。どこか理想郷の讃歌にも覚えた韻律を今、私は生活と隔絶した音調とは受け取らない。多くの人と人生を重ね合わせ、その精神の宇宙に触れ、かえって人間のたっとさのあるがままの観取と捉えるようになった。その眼差しは普遍の主題である生を見つめている。事業が人間の営みである限り、それぞれの幸福がそこに内包されねばならない。あの人の発議に百年の未来から参加してみよう。イーハトーブの隣国・秋田で私たちは次の十年を思い描いている。


〈芸術をもてあの灰色の労働を燃せ/ ここにはわれら不断の潔く楽しい創造がある/都人よ/来ってわれらに交れ/世界よ/他意なきわれらを容れよ〉
宮沢賢治―1926―

◇鎌田展禎(かまだ・ひろさだ)
NPO法人理事長。2009年任意団体「茄子(なす)地人協会」設立。2010年日本青年団協議会主催「全国地域青年実践大賞」受賞。2019年NPO法人「nasu地人協会」設立。有限会社「芝野農興」組合員。2016年同社空中防除部門「スカイ・サポート秋田」設立。秋田県出身。

(河北新報朝刊│コラム微風旋風│2019年12月12日掲載)

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