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寄稿 河北新報コラム(微風旋風)Vol.3「華の里」

 別れを告げる声が震えていた。チーズ館の加賀谷亨館長が不慮の事故で急逝したのは5年前だ。同館を含む華の里エリア(秋田市雄和)の振興事業を長く担った渡辺和弘さんは盟友へ弔辞を手向ける現実を疑ったに違いない。加賀谷さんが渡辺さんの後任に私を据えてから2年でしかなかった。そうして託された未来の青写真に今、ようやく彩りが点り始めている。

 華の里は秋田空港に間近い観光拠点エリアだ。その中央を占める秋田国際ダリア園はダリア文化の発信源として世界的な評価を博する。年毎に植栽する7百品種(7千株)の大半が園内で育種する新品種であり、国内市場に出回る切り花品種の実に7割を生み出してきた。10月に入るとダリアを縁取る孔雀草が開花して鷲澤康二園長が日本一のクオリティと自負する圧巻の最盛期が訪れる。雄和の花見は秋なのだ。今秋もエリア内事業所と当法人「nasu地人協会」が恒例の「雄和よりみちフェス♪」を共催(10月19・20日)して来場者を歓迎する。

 一時は開催も危ぶまれたイベントの存続は華の里に咲く友情に負うところが大きい。空路利用者の玄関口エリアを賑わさんとの厚志が地域の枠を越えて持ち寄られるのだ。川反五丁目竿燈会を例に挙げれば、奉仕の出竿は私の携わった7年で4度に上る。稲穂を模った竿燈とダリアの競演は近年の風物詩だ。体軀に抜きん出た菊池賢治さんは歯の上に竿燈を立てる曲芸で毎度の喝采を浴びる。川五衆による大所帯の加勢もそもそもは名物代表である盛林正彦さんとの小さな縁だった。こうした偶然の培う人脈がいつしか重なり合い、振興事業の推進組織が拡充されつつある。昨年は来場者と関係者の交流を描いたオリジナルソングがシンガーソングライターの板橋かずゆきさんによって誕生した。

 葬儀で渡辺さんが加賀谷さんへ語り掛けた「遺志は実現される」の言葉は本当になるかもしれない。チーズ館は地域商社ノリット・ジャポンの雄和工場として現在も稼働している。初めて同館へ招かれてから8年が過ぎた。ドイツ仕込みの加賀谷さんにワインとピクルスの嗜み方を教わり、華の里の青写真を引いた宴の晩を懐かしく思う。

◇鎌田展禎(かまだ・ひろさだ)
NPO法人理事長。2009年任意団体「茄子(なす)地人協会」設立。2010年日本青年団協議会主催「全国地域青年実践大賞」受賞。2019年NPO法人「nasu地人協会」設立。有限会社「芝野農興」組合員。2016年同社空中防除部門「スカイ・サポート秋田」設立。秋田県出身。

(河北新報朝刊│コラム微風旋風│2019年9月19日掲載)

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