【全国地域青年実践大賞】
nasu地人協会は会員それぞれが生業のかたわら活動する兼業NPOです。鎌田展禎(現)理事長の考えに共感して集まった職業も性格もまったく異なる個性が任意団体として動き出したのがはじまりです。
当時の茄子(なす)地人協会が本格的な地域活動を開始した男鹿市が秋田県観光連盟に所属していた私の担当エリアだったことがのちの入会のきっかけになりました。仕事の経験を活かし、企画や制作に少しずつ参加するようになりました。住民にお願いされるまま立ち上がった素人集団ながら、設立翌年に「全国地域青年実践大賞」の大賞を秋田県ではじめて受賞するなど、不思議な魅力がありました。受賞は男鹿市五里合における無形文化財の保存や旧校舎の活用が評価されてのものでした。この反響で男鹿市から秋田市へ、さらには県内各地から都内へと行き来の範囲は急速に広がりますが、その出だしでは今日に至るにぎやかな出会いと出来事を予想していませんでした。
【Yu-Walk(ユー・ウォーク)】
私たちの応援ソングとして寄贈された『Yu-Walk』も大切な宝物のひとつです。私たちの活動を知ったシンガーソングライター板橋かずゆきさんが無償で制作してくれました。全盲の板橋さんに歌詞の材料を提供するため、関係各所を回ってキーワードやエピソードを募ると、その協力に対して代表者を作詞クレジットに記載しようと板橋さんから申し出があったのです。厚意をありがたく受け止めた理事長は奔走した会員氏名の一文字ずつが入ったペンネームを提出しようと当事者の6名に案を示しました。誰の異存もないはずの思いつきに二番目の会員として長く理事長を支えてきた村井一彦(現)事務局長がまさかの難色を示しました。「私だけ、名前ではなく、名字からとられています」司法書士の資格を有し、普段は沈着な彼の言葉に一同は大笑いし、その主張するところを理解しました。最後は姓名判断にまで頼ってようやく架空の作家が誕生したのです。私もその友久志真禎彦(ゆくしま・さだひこ)のひとりです。思わぬ人の強情が意外であり、それ以上に仲間の人間らしさをのぞいたようでうれしくもありました。
【時節】
世界的に蔓延した新型コロナウイルスは私たちにとっても無関係ではありませんでした。平成八年から継続されてきた華の里エリア秋まつり「雄和よりみちフェス♪」の開催が令和二年で途絶えたのです。今年一月放送のテレビ番組「プロフェッショナル~仕事の流儀(鷲澤幸治編)」でエリア内の秋田国際ダリア園が注目されていただけに悔しさはなおさらでした。ならばせめてもと情報の発信でエリアの存在感を示そうと考えた私たちはエリア中央芝生区画の愛称を公募することにしました。利用者・来場者から要望があった同地区の改良が行政と私たちの協議による工事で今夏実現していたのです。
県紙・秋田魁新報に募集記事が掲載されたことも手伝って、たくさんの応募や活動に対するメッセージ、思い出などが寄せられました。
さらに、活動を制限せざるを得ない状況のため依頼を控えていたにもかかわらず協賛金が振り込まれ始めたのです。地元企業のほか、近年は疎遠になっていた地域外の店舗などからもご厚意が寄せられ心が震えるほど感動し、励みになりました。
こうした時節にふさわしい取り組みが求められていることを感じ、新たに農業・飲食業支援事業のモデルを示そうと試みています。その第一弾として理事長と事務局長の故郷・大潟村の米生産グループである株式会社農友と秋田駅に店舗を構える秋田比内地鶏やのマッチングを成功させました。
【赤神神社五社堂】
会員の当面の仕事は国重要文化財の赤神神社五社堂へ無事に東京五輪聖火リレーのランナーを迎えることです。前述の受賞対象になった男鹿市の事業はその翌年に赴任した地域おこし協力隊から事業継承の要望を受けて移譲し、私たちは平成二十四年から開始しているなまはげ伝説の発祥地である赤神神社の整備事業を引き続き行っていきます。秋田県観光連盟退職後、数年たってから神社の責任役員に任命されたのですから巡り合わせとは不思議なものです。
【理念と信頼】
十年にわたる活動でたやすいと感じたものはありませんでした。膨大な労力に見合う成果をえられなかった事業もあります。現在の会員はそうした困難や失望から信念を培ってきました。成果には事業の継続が必要であり事業の継続には個人の思惑を超えた大きな理念が不可欠です。
昨年の法人化は理念の言語化でもありました。その理念も本気でやり通す人がいなければただの言葉です。私は入会当初から会員の熱量の源が何なのか気になっていました。何度も聞いてみましたがみんな同様にはぐらかすばかりです。それはきっと私自身に対する質問だったのです。
私が起業する時に「何を言うかより、何を言わないか。何をするかより、何をしないかが信頼なんだ」と理事長から声をかけられたことがありました。活動を通してその意味がわかってきたように思います。
「頑張っているから応援したくなる」。そう言って支えてくれる人はいつでも言葉ではなく、行動に対して共感しているのです。頑張って理念を掲げているのは大変な時もありますが、それでこそ出会えた出会いが活動に大きな収穫をもたらしてくれています。
「やってくれるから」でも「やってあげるから」でもなくお互いに歩み寄れる関係が大きな成果を生むことを私たちは何度も体験してきました。
理事長は「会員の人生を豊かなものにしたい」と言います。仕事をしながらのボランティアは大変だろうと人目には映るかもしれません。しかし、信頼されて共に目標に向かう時、それは誰のためではなく私にとって充実した幸せと確かに思えるのです。
この原稿の執筆中、前述のエリア愛称考案者から賞金は匿名で児童福祉事業に寄付してほしいとする旨の連絡がありました。こうした志にふれられることが私たちのよろこびなのです。
◇玉尾真紀(たまお・まき)
NPO法人「nasu地人協会」副理事長。秋田県観光連盟職員を経て、2015年デザイン制作・企画「LiveRally」設立。2017年赤神神社責任役員就任。秋田県出身。
(あきた青年広論│2020年12月12日号掲載)